「………こいつぁ………」
往壓は雲七と顔を見合わせる。そこには生後わずかだろう赤ん坊がすやすやと眠っていた。
「こういうのをここへ捨てられてもどうしようもないんだよ」
「あたしが乳をやれるならそうします。でもあたしはこの子をこの手で抱き上げることもできないんです。このままではこの子は飢えて死んでしまいます。子供を死なせることだけはできません。それで豊川様におすがりしたんです」
ずっと黙っていたお袖狐が堰を切ったように言った。子供を見つめるその目は人間の母親と同じ、切なく愛しく、悲しそうな目だった。
「人間のことは人間で解決してもらいたいんだよ」
往壓は恐る恐る豊川に尋ねた。
「つまり………俺らにこの子を引き取れと?」
「あんたに子育てができるとは思えない」
豊川は赤い唇を吊り上げた。
「とにかくこの子を育ててくれるような、二親揃った立派な家へ養子にでも出しておくれ」
円盤になった雪輪の上で、往壓は赤ん坊を抱いていた。目を覚ました子供はさかんに目を動かし、身動きする。往壓はその頬を指でつついてみた。
「お? お?」
「どうしたんです、往壓さん」
「こいつ俺の指、しゃぶってるぜ」
往壓が嬉しそうに言う。
伸ばした人差し指を赤ん坊が両手でしっかり掴み、小さい口で懸命に吸い付いているのだ。
「………そりゃあまずいな」
「なんだよ、俺の指が汚いってのか」
「そうじゃありませんよ、たぶん―――」
赤ん坊は往壓の指から口を離し、ふにゃあと顔をゆがめると盛大に泣き出した。
「うわ、雲七、泣いたぞ!」
「腹がへってるんでしょう」
「ど、どうすればいい?」
「乳をやれればいいんですけど」
「お、俺はでないぞ!」
「だれもあんたに乳をやれとは言ってませんよ。ちょっと待っててください………」
雪輪は一度動きを止めると何かを探すように左右に身体を動かした。
「よし、こっちだ」