狐の薄い舌が全身を這い回っている。
何匹いるのかわからない。いや、舌の数は多すぎる。もしかしたら舌だけなのかもしれない。
「ぅあ、ああ………っ」
押さえつけられているわけでもないのに往壓は動くこともできない。これも狐の妖術なのか。
「んんっ」
数匹、五六匹もいるか、その集まった舌先が甘い蜜に集まるように、快感の滴りのもとをなめあげる。
あるものは根元から、あるものは芯を、あるものは筒先を、鈴口に細い舌をねじこむものまでいる。てんでばらばらに、しかし執拗に丁寧に、休むことなく舌先はひらめく。
「あっ、………あっ」
往壓は唯一自由になる首を振った。体中から集められた快感の熱が、解放を求め腰のあたりに熱く溜まる。なのに駆け上がろうとすると舌先が引いてしまうのだ。まるで梯子をはずされるかのように絶頂の手前で放り出される。
その繰り返しに気が狂いそうだった。
体中がせつなくわななき、快感と苦痛の間で睫毛はしっとりと露を含んでいる。
「あ、も…ぉ……っ」
往壓はとうとうその強情な口を開いた。
「わ、わかった………わかったから―――もう………勘弁、してくれ」
「おやおや」
嘲るような声が真上から聞こえた。潤んだ目を開くと豊川狐が白い顔を逆さに向けて嗤っている。
「案外と手ごたえのないこと」
するすると腕が伸び、指先が頬をくすぐる。
往壓はからだの自由を取り戻したことを知り、そのきゃしゃな指先を掴んだ。
「あんたの………言うとおりにするよ」
荒い呼吸を抑えてなんとか声を絞り出した。舐めあげられた全身は汗と唾液に濡れ、蜜を漲らせる先端ははしたなくねだるように震えている。
「ハナからそうやっていい子にしてりゃあいいのさ」
豊川はぐったりした往壓を抱き起こすと、その紅い唇を重ねた。
少しだけ生臭い匂いはしたが、人間と同じ舌を往壓はされるままに吸った。
くちゅくちゅと二つの唇の間で水っぽい音が響いた。豊川が少し顔を離すと往壓の舌が引き出された。唇の外で獣のようになめあう。
「ふふ」
縁に紅をさした豊川の目が細められる。それがぼんやりと蛍色に輝いた。
「なかなかいいよォ」
豊川は伸ばしたままの舌を往壓の胸へと這わせた。狐の愛撫に硬く、紅く色づいた粒をくるりくるりと舐め上げる。
「も、もう………っ、それはかんべん………」
往壓は喘いで豊川の肩を押し返した。触れて欲しいのはそこではない。
「く く く」
豊川は喉の奥で声を立てた。美しい顔ににゅうっと一瞬、獣めいた表情がかぶる。
「イカせてほしいかい」
「ああ………」
往壓は豊川の黒々とした髪に指を差し入れかすれた声で言った。
「いかせて………くれ」