「な、な、なに言って……」
ラキエは顔を下げると二の腕から始まって、肩口、鎖骨と順番に舌を這わせていった。あますところなく丁寧に舌で触れていく。獣の長い舌が僕を濡らしていった。
(本気で全身なめる気だ)
僕はじたばたと肩を動かした。自由にならない身体ではそこくらいしか動かせない。
「い、犬はそんな舐め方しないぞ」
「犬じゃないからな」
ラキエはからかうように言うと胸に舌を伸ばした。突起を先端でつつくような舐め方は、それまでの一通りなめていくのとは違う。
「……んっ」
あきらかに感じさせるための動きに僕は身をすくめた。獣の舌は人間型のそれとは動きも違うのか、それはすごく繊細で自在で。
「ラ、ラキエ……ッ」
快感が胸からひろがっていく。だがそれは強いものではなく、よりはっきりした刺激が欲しくなる。僕は首をふってなんとかその感情を散らそうとした。
ラキエは自分が満足するまで舐めると、また身体の線にそって舌を下ろしていった。
(たぶらかした相手にも、こんなふうにしたのだろうか)
ふとそんなことを思う。こんなに感じさせて求めさせたのだろうか。
「君は……こんなふうに他の……」
つい口に出てしまった。ラキエは顔をあげずに聞き返した。
「他の、何だ?」
「…………」
僕は首を振った。悪魔の性癖を気にしてたって仕方がない。彼らは人間じゃない。人間のモラルも欲望も何の基準にもなりはしない。
(そうじゃない……)
脇腹を舐めあげられ、そのくすぐったさに肩を地面に押しつけて耐える。
(獣に化けて、というところが余計にひっかかっていんだ……。獣同士の性交は目的がそれひとつだから、何かの取引とかであるはずがない。ラキエはその獣が……欲しかったんだ……)
腰までくるとラキエは顔をあげた。様子を見るようにじっと僕の顔をみている。息が早くなっているのは隠しきれない。
「……いつもの姿ならその口、赤くなるまで吸ってやるんだけどな」
ラキエが舌打ちするような調子で言った。
「じゃあ戻ればいいじゃないか」
「犬がいいんだろ」
「誰もそんなこと……」
ラキエは僕の言葉をさえぎるように股間に顔を伏せた。ズボンの上からやんわりと牙をたてる。再び舌がひらめいた。布の上からでもたっぷりと唾液を含んだ厚い舌を感じる。
じわり、と布が濡れていく。
このまま刺激を与えられればラキエが欲しくなるのはわかってる。胸だけでもあれほど感じさせた舌はどんなに強い快感を与えるだろう。
「……や、だ……」
でも、このまま? 獣の姿のラキエとこのまま?
ラキエがのどの奥でグルグルと唸り声をあげる。
「オマエの匂い……いい匂いだ」
濡れた布に刺激され、僕自身もあふれたのか、ラキエにはその匂い、僕の興奮もわかるのか。
ラキエの唸り声が大きくなった。なんだか雰囲気も変わっている。目の前にいるのはたしかにラキエなのに、なにか大きな、得体のしれない獣そのもののような。
ラキエはいきなり僕のベルトをくわえると、顔を振って、持ち上げた体を反転させた。
「うわ」
両手が使えなかった僕はもろに地面に顔をぶつけた。
「悪いな」
上から謝罪の言葉が降ってくるがまるきりココロがこもってない。
ラキエはズボンの布地にその鋭い歯牙をかけあっさり引き裂くと、腿の辺りに開いた穴から、肌をひと舐めした。
「やめろ、ラキエ」
彼が何をしようとしているのか。
僕は気づいて体を捻ろうとしたが、足で押さえつけられ、腕は服で固定されていて思うようにならない。
ラキエは牙と前足の爪を使い、ズボンにあいた穴を広げ始めた。
皮膚を裂くようなことはないが、乱暴に衣服が裂かれていく音と、ポタポタと滴ってくる唾液の感触、そしてグルグルと獣の唸り声しかしない。
「ラキエ!ラキエ!」
僕は不安になって呼びかけた。心まで獣になったのだろうか。
「返事をしろよ!」
なのにラキエは応えずに下着まで裂く。
外気を冷たいと感じるよりも先に、荒い息が肌にあたった。そしてヒタリと湿った舌が押し当てられる。
常よりも長い舌が肌をなめあげる感覚に身体がすくんだ。背をさらしても下半身はおさえられてて逃げられない。
硬く閉じようとする合わせ目を数回、舌が探るように行き来した。それでも僕が力が抜かなかったことに苛立ったのか、ラキエは再びベルトをくわえ、僕の腰を引き上げた。
腰だけをあげさせられたこんな格好、普段のラキエなら絶対にしない。あろうことか狼は足の間にグリグリと鼻先をねじ込み、足を少し開かせようとする。
「いやだ、こんな……っ」
さすがに怒鳴りかけた時、ラキエは舌を伸ばして、開いた足の間から前をなめあげた。
「あっ、あっ」
じかに触れられて僕の抗議は甘く消えた。
ラキエはそのまま舌を後まで伝わせた。腰を上げ、足を開いた状態で顕になった入口を舐めあげる。いきなりのことで力が抜けた僕のそこはあっさりとラキエの舌を受け入れてしまった。
「あ、……!」
とがった舌先が奥へ入り込む。今までにないくらい奥へ……。ぞくぞくっと全身に快感が走った。
(や、だ……っ、うそっ……!)
獣の舌がまるで触手のように蠢いてはいってくる。
「ゃ……ぁあっ」
僕の身体のすみずみを知っているラキエが……感じやすい場所を擦りあげる。その刺激に思わず腰を高く上げてしまう。力をいれようとしても獣の舌が動くたびに全身に熱い痺れが走って身体を溶かす。
(はあ、はあ……)
僕はもう口で息をしていた。全身に汗が噴きだして、額から目へ流れていく。
ラキエは奥まで入れた舌を、一度浅い位置まで引き抜いた。その動きに腰が自然についていく。それに気がつき、僕は地面に敷かれた毛皮を噛んだ。
ラキエは追いかけるような揺れに逆らって、また奥へ差し入れる。何度も抜き差しする度に、湿った音が後ろから響いた。その音に羞恥を刺激され、身体がますます熱くなる。
「い、いや……だ、も……っ」
ラキエの舌だけの一方的で荒々しい愛撫に腰が蕩けてしまいそうだ。地面に押しつけている顔の横に染みができていく。しまらない唇から流れた唾液だ。それが頬を冷たくする。
舌先の愛撫だけでイキそうだった。高くあげさせられた腰、伸びた足の間にばたばたとおちる音がするのは我慢のできない僕の先端からあふれ始めているせい……。
ラキエはそれに気づいて舌を引き抜くと固くなったその場所をていねいに舐め始めた。
「あう、う……っ」
ぴちゃぴちゃと遠慮のない獣の舌なめずり。僕の前と後ろをとろかして抵抗を封じこめ……
でもいやだった。獣の姿のラキエにされるのは……他の獣をたぶらかしたその姿でされるのは──
「ラ、ラキエ、……いや、だ……っ」
背中に重みを感じる。ラキエが全身でのしかかったのだ。ますます顔が強く地面に押しつけられる。背中や首筋にラキエの涎がだらだらと落ちた。
「いや……」
耳元にハッハッという、獣の荒い息がかかる。
「あ、あ……」
押し付けられた腰に、毛皮の感触と共に生々しいものが──
「あ――――――……!」
いれられる前に僕は全身で悲鳴を上げた。
「イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダッ!」
不自由な身体を必死に動かす。あまりに激しい拒絶にビックリしたのかラキエの動きが止まった。
耳障りな音をたてて服がちぎれ腕が自由になる。力が一瞬抜けたラキエの前足を払って、身体を起こすと僕はラキエの首にしがみついた。
ラキエは僕の全力に息が詰まったのか目を白黒させ、舌をだらりと下げた。
「ア、アシュ?」
「戻って!」
僕はラキエの毛皮に顔をうずめて叫んだ。
「お願いだから元のラキエに戻って」
「い、犬の方が良かったんじゃないのか」
「……バカ!」
顔をあげてラキエを睨んだ。だめだ涙が出てくる。ラキエは僕の目の光るものにうろたえたように視線をそらした。
僕はこぶしで涙をぬぐうとそのげんこつでラキエの頭をゴン! と叩いた。
「…って!」
ラキエは前足で頭を押えた。そんなしぐさは人型ポイのに、尻尾が丸まってるあたりが獣の性質なのか。
「僕は君のたぶらかした獣じゃない! 獣に犯されるなんてまっぴらだ! 僕は……っ」
泣き顔をみられたくなくてラキエの頭を抱え顔を埋める。
「……君が好きなのに」
ラキエは抱きかかえられたまま、困っているようだった。ホンモノの犬なら、キュウーンと鼻の一つも鳴らしていそうな雰囲気。
「……俺もオマエが好きだぞ」
ぱふっと肩に獣の前足。抱き返そうとしてくれているようだが、その肉球では無理だ。
僕は顔をあげて金色の目を睨んだ。
「……その姿をしている限り、絶対させないからな」
「わ、分かった、ちょっと放せ」
ラキエが真剣に困っているようだったので、僕は力をゆるめて彼を離した。
狼は少し距離をとってから、呪文を唱えはじめた。変身時の映像が逆回転するように、元の姿に戻っていく。
「……」
僕はラキエが元の姿になったのでもう一度抱きしめた。
「おい……」
何も言わない。気が済むまで抱きしめる。ラキエの両腕が背中にあることにほっとする。流れる金の髪に、細いけどしなやかで強靱な身体に、きれいな顔に。
「……いくら君でもあの姿じゃいやだ。あれは僕の知らない獣だ」
まばたきした瞬間に涙がひとつだけ頬をつたった。
「君は――僕が知らない獣に犯されてもいいのか」
「そんなの許すわけないだろ!」
ラキエが即答する。想像するのも不愉快、というように眉間にしわを寄せている。
「僕もいやだ。君があの姿で知らない悪魔としてると思うのもいやだ」
ラキエはとまどっているようだった。彼は考えながらゆっくり聞いた。
「……さっきの姿は知らない獣だから嫌なのか?」
「そうだよ」
「でも、あれで他の悪魔としてるのも嫌なんだな?」
「そうだよ!」
「ん──……」
ラキエは首をかしげる。
「……ヤキモチか?」
ゴン!
もう一発げんこつをくれてやった。
「いてっ、なんで叩くんだオマエは」
「君が好きだからに決まってるだろ!」
そう言ってラキエの顔を抱えてキス。もうぐちゃぐちゃ言わせないし、僕も言いたくない。これ以上説明するとラキエの質問を肯定しなきゃいけなくなるかもしれない。
「ん……」
深くラキエの唇を味わっていると、腕が僕の身体を抱きしめた。そう、やっぱりこうやって抱き合って、くちづけを交わせるのがいい……ラキエの姿のままで……
やがて顔を離したラキエは目のふちを少しだけ赤くして、でも強いまなざしで僕を見た。
「オマエがイヤなら、もうしない」
「うん……、君の姿の方がいい」
僕はきれいなラキエの顔、その頬を撫でた。
「他の奴ともだ」
「え……」
ラキエは真剣な顔を崩し、少し意地悪な笑みを見せた。
「見境なしが、オマエとだけするんだからな。覚悟しとけよ」
「……」
墓穴をほった気がしないでもない。人間の何倍も性欲の強い悪魔、その種族であるラキエが自分の欲求を押さえて僕だけと……? それってかなり僕が大変なんじゃないか。今までだって気絶するくらい抱かれているのに。
「いいな?」
(……でもちょっと嬉しい、かも)
僕はラキエの首に腕を回して、もう一度自分からキスをした。
「節操なしのくせに……無理するなよ」
END
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