目を開けるとやっぱり眩しかった。
往壓はぱちぱちと瞬きし、今の自分の状況を思い出そうとした。いったいなんで宰蔵や小笠原や元閥、アビ、それに雪輪までが自分を覗き込んでいるのか。
「えーっと………」
往壓は仲間に視線を向けた。と、いきなり宰蔵に額をはたかれた。
「この、ばか竜導!」
「いてっ、なにしやがる!」
「夜釣りに出かけて船をひっくり返すとはなんというマヌケだ! お前、溺れ死にかけたんだぞ!」
「………へ?」
往壓は起き上がった。身体は全身水びたしで磯臭い。そういえば昨夜一人で船を出したんだっけ。
「雪輪がいきなり飛んできてお前が危ないと知らせてくれたのだ………屋敷の障子をぶちやぶってな」
小笠原がまずい抹茶を口に含んでいるように言った。往壓が雪輪を見ると長い顔を振ってそっぽをむく。
「たいへんだったんですよ、竜導さん。アビが潜ってあなたをひきあげて………そのあと誰があなたに息を吹き込むかって」
「え? だ、だれがそれで………」
往壓は言いかけたがみんなが目を泳がせたので黙った。聞かない方がいいようだ。
「そりゃあ手間をかけてすまなかったな」
立ち上がるとふらりとよろけた往壓の背中を雪輪が鼻面で支えた。
「ああ、悪いな、雲七」
手を上げて鼻を撫でてやろうとしたが、雪輪はくるっと後ろをむいてしまった、そして長い尻尾でぴしゃりと往壓をはたく。
「見損ないましたよ、往壓さん。あんた、あたしと死に神の区別もつかないんだ。ほいほいとしらねえ男のあとについてくなんて」
「えー………? あー………」
ぼんやりと起きる前のことを思い出し、往壓は頭に手をやった。
「死ぬまで一緒だって言ったのに勝手に海におっこちて死にかけるなんて」
「いや、そりゃ不可抗力で」
「知りやせんよ」
「あそうだ、いっぱい飲んであったまろうって言ってたんだ。このままだと風邪引いちまいそうだ………な?」
「その約束はあたしとじゃありゃしませんでしょう」
目の前で馬と痴話喧嘩をはじめた相手に、奇士の仲間はいたたまれない気恥ずかしさを覚えた。
「あいつ、やっぱもう一回海に沈めとくんだった」
宰蔵の言葉には誰も賛成はしなかったが否定もしなかった。
「海に落ちて死にかけて無事に生還したのに誰も喜んでくんねえのか? お前ら、友達がいのないやつだな!」
往壓は振り向いてわめいた。宰蔵が目をむいてわめきかえす。
「誰が友達だっ! 迷惑だ!」
「私はお前の上司だ、友達などではない」
「わたしだってあなたのお友達になった覚えはないですよ」
「えーっとオレは………」
言いかけたアビは元閥に胃の腑を肘打ちされ言葉を飲み込む。
「つ、冷てえ! 冷てえぞ、てめえら」
「自業自得ですよ、みなさんに心配させて」
雪輪が鼻で笑う。往壓はわめき、宰蔵は往壓を蹴り飛ばし、小笠原が怒鳴って、元閥が意地悪を言って、アビは困って。
つまりはいつもと同じ、往壓と愉快な仲間のそんな1日だった。