しばらくは寄り添って一緒に眠っていたが、半刻もしないうちに元閥が起き上がった。
「どうした」
「そこに来てます」
往壓も起き上がった。
しかし元閥の見ている方角、部屋の隅にはなにも見えなかった。
「子供が?」
「いえ、気配だけなのでなんとも」
いきなりどしっと両肩が重くなった。思わず布団につっぷす。その布団が水の粒を浮かすほどに湿って冷たくなっていた。
「元閥!」
「来ます」
わああんと耳の中で音が響いた。子供の悲鳴だ。
―――だしてえ、だしてえ―――
ドォンドォンと屋敷が壊れるのではないかと思うほどの大きな音。その音と子供の声が往壓の耳の中で響いている。
「やめろっ!」
往壓は耳を押さえて怒鳴った。だが音と声は続いている。
―――だしてえ だしてえ ………さま………
「どこにいるんだ、お前はどこにいるんだ!」
頭の中でがんがんと響き渡る声にかき消され、自分の声も聞こえない。
―――だしてえ だしてえ だしてえ ちちうえさま だしてえだしてえだしてだしてえ………
「竜導さん!」
すぱっと音を切り裂いて元閥の声が聞こえた。はっと往壓は顔をあげた。
「聞いたか?!」
「父上さまと言ってましたね」
「この屋敷の主、内藤某の息子はどうして死んだんだ?!」
往壓は立ちあがると廊下に飛び出した。
「どこへいくんです?!」
「子供はこの屋敷にいるんだ!」
「しかし………」
昼間に部屋は見たはずだった。どこにも異常はない。
往壓は小笠原の寝ている部屋の障子を開けた。
「小笠原さん、この屋敷の見取り図はないか?」
「え? あ? 竜導?」
小笠原は熟睡していたようだった。ねぼけ眼で身を起こす。
「どうしたんだ」
「あやかしが出た。あんたは気づかなかったか?」
「いや、わたしは」
小笠原は首を振ると、布団から這い出して床の間においていた手荷物をとった。
「確か見取り図はいただいていた」
往壓は小笠原の手から見取り図を取り上げるとすぐに部屋を出た。元閥が寒そうな顔で立っている。
「ここが俺のいた部屋だな」
行灯の下で図を広げる。
「ここが私の寝ていた場所」
元閥は指で一部屋を指した。
「アビがいた部屋、宰蔵さんのいる部屋、おかしらの部屋」
ひとつずつ指していくと奇妙なことに気づいた。往壓の部屋と宰蔵の部屋の間の部屋数が、実際に数えたときより多いのだ。
「部屋がひとつ………ない?」
その部屋は廊下から入った八畳の奥にある。
往壓と元閥はうなずくとその部屋へ向かった。